第1回 速水御舟 《小 春》 はやみぎょしゅう 《こはる》 1910年(明治43)
秋草を背に藤原時代風の童子が、ほつれた桧扇を手に大きすぎる浅沓を履き、独りたたずむ姿は無邪気さを表すかのようである。歴史人物画の大家である松本楓湖の画塾での古典模写などによる修習の跡が窺い知れるとともに、背景の藤袴などの秋草の描き方からは、写生によって得られた自然に即した軟らかな表現が見られる。
この「小春」は、速水御舟(1894〜1935年)が16歳になる年(明治43)の3月、最初に用いた「禾湖」の号で、第10回巽画会展に初出品し入選を果たした記念すべき作品であり、御舟自身も「私の最初の画歴となるものである」と後に回想している。
この作品からは御舟自信の初々しさが投影されているようで以後、常に革新的な試みを続け、「炎舞」「名樹散椿」(いずれも重要文化財)など数多くの名作を世に送り出したが、その早すぎる死はあまりに惜しまれる。 |